日本政府が外国人労働者の受入れ拡大支援をしていることもあり、在留外国人は2019年6月末時点で過去最高の282万人となっています。
なかでも技能実習という在留資格で入国してくる技能実習生の数は伸び続け2019年6月には36万7千人まで増加しました。
出身国別に見ると、1位のベトナムが18.9万人、そのあとに中国が8.1万人、フィリピン3.3万人、インドネシア3.0万人、タイ1.0万人と続いており、ベトナムだけで51.4%、2位の中国と合わせると73.5%と約4分の3を占めます。
上位5カ国では93.8%を占め、技能実習生とはベトナム、中国を中心とするアジア諸国出身者のことを指しているといえます。
また、技能実習生が増える一方で、劣悪な労働環境や失踪する実習生の増加等、制度上の問題はこれまで多く指摘されてきました。
2017年11月に施行された技能実習法(外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律)の第一条には技能実習の目的をこう定義しています。
『人材育成を通じた開発途上地域等への技能、技術又は知識(以下「技能等」という。)の移転による国際協力を推進することを目的とする。』
明示されている通り、技能実習制度の建前は日本から発展途上国への技能等の移転による国際協力であり、日本の職場で身につけた技能を自国に持ち帰り、自国の発展に活かしてもらうということです。
ただその建前とは裏腹に、技能実習制度は表向きは受け入れを認めていない低賃金での労働者を受け入れる方便として機能している側面もあります。技能実習制度が労働者を継続的に獲得して事業を維持していくための必要不可欠なシステムとなっている中小企業も少なくありません。
技能実習生が特に多いのは食品製造、機械・金属、建設、農業、繊維・衣服などの第一次及び第二次産業です。
技能実習制度に常につきまとってきた問題が劣悪な労働環境です。
長時間労働、最低賃金違反、残業代の不払い、パワハラ、セクハラなどです。
2019年に厚生労働省が全国の労働局や労働基準監督署を通じて全国約7,300の事業場を対象に行った監督指示や送検等の状況について取りまとめた結果では、70%以上で労働基準関係法令違反が認められました。
出典)厚生労働省:技能実習生の実習実施者に対する監督指導、送検等の状況(平成30年)
違反の内容は労働時間に関する違反が最多の23.3%、次いで安全基準、割増賃金の支払いや就業規則に関する違反、衛生基準、労働条件の明示に関する違反などが続きます。
出典)厚生労働省:技能実習生の実習実施者に対する監督指導、送検等の状況(平成30年)
また同じ厚生労働省の調査によれば2019年に技能実習生から労働基準監督署に対して法令違反の是正を求めてなされた申告はわずか103件に留まっています。
つまり外部からの調査がなければ現場の法令違反が明るみに出ることはほとんどないともいえます。
こうした数字を見ると、技能実習制度の構造的な問題点が浮かび上がってきます。
そもそもなぜこんなに多くの法令違反が横行しているのか、なぜほとんどの技能実習生は労働基準監督署に助けを求めることができないのか。
次からはこの二つのことを考えていきたいと思います。
技能実習制度の受け入れには大きく二つの方法が存在します。
一定規模以上の企業が実習生を直接雇用する企業単独型と、中小零細企業が組合や商工会などを通じて間接的に実習生を受け入れる「団体監理型」があり、95%以上は団体監理型から受け入れられています。
この数字からも技能実習制度は中小零細企業に外国人労働力を送り込む制度として機能しているのが見えます。
技能実習生と実習先の受入企業とのマッチングは、送り出し国側の「送り出し機関」と日本側の「監理団体」という民間団体が介在して行われています。
両者ともに本質は人材事業者であり、日本語教育や研修、日本での生活面でのサポート等、一般の人材事業よりも対応範囲は幅広いですが、あくまで本質は人材の募集とマッチングです。
実習先となる中小零細企業にとって、外国人労働者を自力で集客・採用したり、外国の人材会社を自力で開拓することは難しく、民間団体に頼り手数料を払わざるを得ないため、技能実習生本人に支払う賃金を削り込むことになっています。
これが一つ目の技能実習生が日本人の低賃金労働者よりさらに深刻な低賃金状態に陥りやすい要因となっています。
技能実習生が来日前に日本語学習や研修のために通う送り出し機関は100万円ほどの費用がかかるところもあります。多くの技能実習生候補はこの渡航前費用を支払うことが出来ないため、多額の借金をしています。
多額の借金をしても日本で働き契約通りの給料をもらいながら契約通りの期間働き続ければその借金を返済してもなお貯金が出来ます。
しかし裏を返せば、契約通りの給料をもらい、契約通りの期間働き続けられることが条件となります。
もし契約未満の給料だったとしても借金が減るわけではないので、契約賃金以下、時には最低賃金以下で働くことを余儀なくされ、どんなに過酷な労働環境でも帰国という選択肢を選ぶことが出来なくなってしまいます。
また実習期間中に実習先が強制的に帰国させることができる「強制帰国」というものがあります。
この恐怖により、借金の返済前には帰国できない技能実習生は我慢せざるを得ないという構造があります。
また、技能実習生には転職の自由が制限されており、運悪く悪質な企業に当たってしまった場合は非常に苦しい状況に追い込まれます。
さらに、実習先が技能実習生のパスポートや携帯電話を強制的に預かったり、来日前に「実習先に文句を言いません」などの誓約書にサインをさせられているケースまであります。
技能実習生の多くは日本で稼いだお金で母国に帰ったら商売をしたい、将来家族のために家を建ててあげたい、日本の技術を学びたいといった純粋な思いを持っている方が多くいます。
その方たちの思いを裏切らないためにも、今後日本が外国人にとってより働きやすい環境になっていくためにもまずは構造的に発生している問題に真摯に向き合うことが必要だと考えています。